双亡亭から出られない凧葉は黒い手に掴まれ、再び双亡亭内に引き込まれた。
黒い手につれてこられた場所には、肖像画の中で出会った絵描きがいた。
あらすじ
凧葉「アンタは!?」
絵描き「何を驚いている…? あの時、約束した。『お前が帰ってこられたら…絵の話をする』と…」
凧葉「そうそう訊きたいコトいっぱいあんだよ~! あのワサワサ伸びる『黒い手』なんなのよ~!? あんたにオレが『行ってやりたい奴がいる』って言ったアトに『黒い手』が来たからさ、あんたが何かしたのかずっと訊きたくてよ~!」
凧葉「だいたいオレ、あんたのコトずっとオレの夢のキャラだと思ってたんだぜ!!」
絵描き「…『キャラ』とはなんだ? 伽羅…香木の事か?」
凧葉「イヤ…いい匂いの木じゃなくて登場人物…っつーか…」
絵描き「夢の人物… 私は夢ではないぞ… あの『黒い手』とやらもな」
凧葉「あの手につかまれて、あっちこっちに行ったよ… アレのつかんでくる感触がもう、気持ちワルくてさ! ゾンビにさわられてるカンジがこんなカンジかって!」
絵描き「…ぞんび…とはなんだ? お前はおかしな言葉を使うな… 洋行帰りか…?」
凧葉「へ…外国行ってなくてもわかるだろ? 確かに英語だけどさ… あんたいくつだよ…? なんかジイちゃんみたいなコト言うな… それにあの『黒い手』はひょっとしてやっぱりあんたが…?」
絵描き「ああ… 私がお前の思う通りに動く、あの手をくれてやったのだ」
凧葉「なんだよ… あんた気味悪ィなァ… そんなにオモシロそうな絵、描いてんのによ~!!」
絵描きが描いていた絵は壁に空いた鉄格子の窓から外を覗いている顔が描かれた絵だった。
絵描き「これが面白そうだと?」
凧葉「フツーはもっとコチョコチョ描きたくなるよなァ。それを割り切って単純化して面とか線に置き換えてさ。ぜんぜん違う絵だけど、なんか雪舟の水墨画のアレ…お坊さんの達磨の絵を思い出したよ」
絵描き「雪舟…『慧可断臂図』か… 雪舟はいいな。線をなぞっただけの…つまらんものも山ほどあるが… 若い頃は水墨画なぞ、くだらないと思っていたが…」
凧葉「そーそーそー 絵って、年くって見ると違って見えてくるコトあるよなァ!」
絵描き「ああ…」
凧葉「イヤ!イヤイヤイヤイヤ!! そーじゃなくてよ! あの『黒い手』のハナシだってよ! なんだよ、あの『手』をあんたはオレにくれたんだって言ったな!? じゃあ! じゃあ雪舟好きのあんたはなんなんだよ!? あんたは…一体、誰なんだよ!?」
絵描き「私は…芸術家だ」
凧葉「そんなコト、絵を描いてんだからわかるよ!」
絵描き「絵か…絵を学ぼうと世界を旅する間…私は様々な外国の建築物から感銘を受けた…」
絵描き「脳だ! 私は世界の建築物を見ることによって、脳髄を揺らされたのだ! 人間にとって一番大事な事は『脳髄を揺らす事』なのだぞ! 建物を見て脳を揺らす事は、特に『身体に良いこと』なのだ!」
絵描き「たとえば、不思議な構造をしている家… その帽子かけやのぞき穴は人の脳に刺激を与えて揺らすだろう?」
絵描き「だから、私は旅から帰ってきて思った。私も外国の建物に負けない『脳を揺らす建物』を作ろうとな! そしてその建物に住んだら私の脳ももっと揺れていい絵が描けるだろう…」
絵描き「だから私は建てたのだ。この…<双亡亭>をな!」
凧葉「…ちょっと待て…待ってくれよ… というコトは…! あんたの名前は!?」
絵描き「私は泥怒。坂巻泥怒」
凧葉「何言ってんだよ!! 泥怒は明治生まれだぞ! あんたみたいに若いワケないだろ!?」
泥怒「知るか…私はここで、前から絵を描いていた」
双亡亭の中を一人で進む緑郎
トマソンだらけの内部で迷う緑郎「また行き止まり。早く青一くんの向かった方へ行かなきゃいけないのに…」
緑郎「はじめて入った時は気づかなかったけど…<双亡亭>っておかしい… こんなトコ…人が住めないよ…」
ある部屋に入った緑郎。
脚に何か引っかかる「うわ… なに… 料理のお膳? たくさん並んでる…?」
部屋にはお膳が並べられていて、壁の傍には鮮やかな着物がかけられていた。
緑郎「コワイ…なんだか、ここコワイよ…」
奥に進んでいく緑郎「うわ! 人? いや、ヒトじゃないのかな…」
人らしき影に近づいていく緑郎。
緑郎「ああ… ああああ~!!」
人影は花嫁姿をしたミイラだった。
感想
泥怒の目的を明らかにすべし
絵描きはやはり泥怒だった!
泥怒は「海外旅行から帰ってきたら変わっていた」と言われていたが、海外旅行で何かに取り憑かれたんじゃなく、刺激を受けて変わったのか。
泥怒が描いていた絵は気持ち悪い絵。
これは自分の今いる状況を表しているのか? 外に出られない泥怒、自分の絵を他人に認めてもらえなくて自分の主張している事も外に出られないという状況も表していそう。
泥怒「脳を揺らす事は身体に良いこと」。脳を揺らす? 脳を揺らすってのは肖像画の中で過去のトラウマを見せるのも脳を揺らすに入るのか?
凧葉と初めて会話した時は
泥怒「体の中の『病』が表面に現れることを『症状』と呼ぶ。医者はその『症状』から、患者の体内の原因を調べる。それが『診察』。私の芸術表現は『診察』に他ならない」
過去のトラウマという『病』を見せて脳を揺らして『症状』を見る。それが泥怒の『診察』なのか? この目的は? 「人々を過去のトラウマから開放して前向きに生きるように身体に良いことをしてあげよう」とか前向きな目的があるようには見えない。
だが泥怒に悪意は無い感じ。あっても自分の絵を認めない世間への恨みだろう。でも世間の目よりも自分が納得する絵を描く事に情熱を燃やしている様子。双亡亭を建てた目的もあくまで良い絵を描くためだろう。この「いい絵を描く」という泥怒の情熱をあの着物を着た子に利用されたのだろうか?
『黒い手』を凧葉にあげられるということは、泥怒自身も何かの能力を持っているんだろう。その黒い手は凧葉いわく「ゾンビに掴まれているような感触」。あの手は人間の体温より冷たいのか? 脈があったりとかは無いんだろうな。
そして物語としてはこの泥怒と黄ノ下が再会することはあるだろう。そして黄ノ下が今の泥怒とはまだ会っていない様子だったから、黄ノ下は肖像画には吸い込まれていないんだな。
緑郎、謎を探るべし
そして緑郎。双亡亭に入って沢山のトマソンを見て脳を揺らされてるなぁ。ただでさえ怖くて父親が食べられた所なのに、さらにトマソンだらけなら脳を刺激されまくるなぁ。
それでも進んでいった緑郎が見たのは結婚式。というか明治にはまだ結婚式が無かったから、これは自宅でやる婚礼の儀礼。
婚礼の儀礼は自宅でやるから、この花嫁は泥怒の結婚相手? 泥怒の結婚相手だったら黄ノ下も知っている人なのかなぁ?
まだまだ残る謎を明らかにすべし!